成長期の膝前面の痛み 
-オスグッド発症の身体的特徴について-

成長期の痛みの代表ともいえる「オスグッド-シュラッター(Osgood-Schlatter)病」について、発症要因(発症に関わる身体的特徴)について紹介します。

オスグッドの発症早期に運動を休止した場合には、そのほとんどで骨性の修復がみられ、短期間での競技復帰が可能であるという報告があるのに対し、
発症後に脛骨粗面(お皿の下部の骨のでっぱり部分)の骨の剥離が形成され、疼痛が憎悪した進行例では、競技復帰までに長期の運動休止が必要となります。

競技活動の長期休止は、神経系が著しく発達し技術の成長による競技力向上が期待できるこの時期において大きな支障となります。

オスグッドの発症要因を知ることは、早期復帰につながる治療の発展や、予防活動の普及につながると考え、オスグッドに関わる調査を実施した論文を紹介させていただきます。

現在
◎お子様、またはチームメイトがオスグッドによる膝の痛みで困っている
◎オスグッドによる痛みで運動を休止している
◎現在は治り復帰しているが、予防のためにできることを知りたい

という方に参考にしていただければと思います。

今回紹介する論文

小学生サッカー選手におけるOsgood-Schlatter病発症の身体的要因に関する研究

はじめに

◎Osgood-Schlatter病(以下オスグッド)は、男子スポーツ選手、特にサッカー選手の発症が多く、その発症時期は12~13歳で、成長期特有の疾患として認識されている。

◎オスグッド発症者の特徴として
✔スポーツ活動量が多い ✔大腿四頭筋や下腿三頭筋の柔軟性が低下している ✔大腿四頭筋やハムストリングスの筋力が弱い ✔大腿四頭筋の求心性筋力と遠心性筋力がアンバランスである などが報告されている

◎柔軟性については、オスグッド発症者では成長期の急激な骨の成長に筋肉の成長が追い付かず、相対的に大腿四頭筋が短縮し、緊張が高くなることや、過度なスポーツ活動により大腿四頭筋が疲労し柔軟性が低下することにより、成長期の脆弱な脛骨粗面へ強度な伸張(ひっぱる)ストレスが加わっていると考えられている。

◎足首の硬さや、ふくらはぎの筋の硬さにより、ランニング動作などで重心が後方化するという動作的特徴を示し、大腿四頭筋の遠心性収縮やトルク増大が誘発されていると考えられている

◎大腿四頭筋の筋力については、オスグッド発症者の遠心性筋力は求心性筋力に比較して強く、スポーツ活動中に多用される遠心性収縮によって脛骨粗面へ繰り返しけん引力が加わっているとされている

◎本研究では、オスグッド発症以前の男子サッカー選手を対象に調査を実施し、オスグッド発症者と、非発症者の身体所見の差を比較し、今後の治療・予防活動における基礎資料とすることを目的とした。


要約
これまでに行われてきたオスグッドの研究で、オスグッド発症者では骨の急激な成長により筋の成長とのアンバランスが生じ、大腿四頭筋(ももの前側の筋)、下腿三頭筋(ふくらはぎの筋)、ハムストリングス(もも裏の筋)などが硬くなっていることが報告されている。
また、骨盤が後傾した状態での動作はオスグッドの痛みの部位となる脛骨粗面に対して、強い牽引力(ひっぱる力)を与え、そのような負担が繰り返し加わり、オスグッドが発症すると考えられている。

これまでの研究からは、オスグッド発症者がどのようなカラダの特徴があるかというものが主であり、その特徴(特に柔軟性の低下など)は発症後の疼痛による影響であることは否定できないことから
この研究では、オスグッド発症前の選手を対象とし、その中から発症したものと発症しなかったものを分け、発症した者の身体的な特徴が調査された。

方法

◎対象
2チームの地域サッカークラブに所属する小学4年生から6年生までの男子児童59名
◎調査方法
初回測定実施後、3か月から4か月毎に膝の状態を評価(以下8項目)
最終的にオスグッドを発症した被験者と発症しなかった被験者の、それぞれの調査時の理学的所見の結果を比較し、オスグッド発症前の身体的要因について検討した

◎評価項目
⓵問診
✔サッカー歴 ✔ポジション ✔練習頻度(週あたりの練習回数) ✔練習時間(1回あたり) ✔ボールキック時の左右足使用割合 ✔練習場所の地面の環境 ✔整形外科的既往歴
②身体測定
✔身長 ✔体重 
③疼痛
✔脛骨粗面の圧痛 ✔運動時痛(スクワット、ジャンプ、全力でのシュート)
④関節可動域
✔胸腰部 ✔股関節 ✔膝関節 ✔足関節
⑤柔軟性
✔ハムストリングス ✔大腿四頭筋
⑥筋力
⑦姿勢
⑧エコー検査
✔脛骨粗面の骨や軟骨の不整像 ✔膝蓋靭帯の肥厚・炎症所見等

結果

◎対象者59名のうち1年半フォローアップが可能であったのは38名
◎オスグッド(発症)群は4名(5膝)、非発症群は34名で発症率は10.5%であった
◎身長による差は認めなかった
◎体重は有意差はないものの、発症群の方がやや高い傾向にあった
◎オスグッド群はすべて同チームの選手であった
◎対象2チームの週当たりの練習回数は3~4回、練習時間は平日で2時間、休日で4時間であり、チーム間での練習量に差はみられなかった
◎発症者のうち3名は軸足、1名は両側発症であった
◎関節可動域・柔軟性
発症群は非発症群と比較し、両側股関節外旋可動域と、蹴り足SLR(ハムストリングス)、両側膝関節屈曲(大腿四頭筋)の柔軟性が有意に低下していた
軸足SLR(ハムストリングス)は有意差はないものの、低い傾向にはあった

それ以外の関節可動域および柔軟性に差は認められなかった
◎筋力
大腿四頭筋、ハムストリングス、大殿筋の各筋力に発症群と非発症群で差は認められなかった
◎姿勢
差は認められなかった

考察

本研究の結果から
◎オスグッド発症者では膝関節屈曲可動域の低下がみられ、主に大腿四頭筋の柔軟性が発症前から低下していることが示された。
大腿四頭筋は急激な骨の長軸成長と筋の成長のアンバランスにより、発育に伴い過緊張となる。
中学生サッカー選手の半年間の調査では、オスグッドを発症した者の大腿骨長増加と大腿四頭筋タイトネス(硬さ)増大との間に正の相関がみられている。
このことから、骨長増加で生じる大腿四頭筋の硬さに対し、ストレッチなどの対策が重要であると考えられる。
オスグッド発症前の大腿四頭筋柔軟性は非発症者の柔軟性と比較して低く、大腿四頭筋がオスグッド発症に関連するとした説を裏付けるものであった。
◎本研究ではオスグッド発症者のハムストリングスの柔軟性が、非発症者と比べ有意に低くなっていることが示された。
ハムストリングスの柔軟性低下は骨盤後傾を生じ、動作中の骨盤前傾とそれに伴う重心の前方移動を妨げ、後方重心を引き起こす可能性がある。先行研究では、小学生は骨盤後傾位にあること、オスグッド患者では動作中に後方重心となり、大腿四頭筋の過活動となることが示されている。
小学性男児のSLRは一般児童で45°程度、定期的にサッカーをしている児童では70~75°と報告されており、本研究のオスグッド発症者の柔軟性は一般児童に近かった。
ハムストリングスの柔軟性はストレッチなどのコンディショニング介入により改善することが示されている。本研究のオスグッド発症者のSLRは50°前後であり、非発症群と比較すると約20°の差がみられ、柔軟性の低下したハムストリングスに対し、それを改善するためのストレッチが不足していたと考えられる。
オスウッド発症者4名はすべて同一チームの選手であったため、チーム間での練習内容やコンディショニング介入、トレーニング要因の差異が影響した可能性は否定できない。

まとめ:オスグッドは予防可能である

今回の縦断的な研究・そして先行研究からオスグッドを発症する選手と発症しない選手には身体的特徴の差があり、この結果はオスグッドが高い割合で「予防できる」というものである。
現在痛みのない選手でも、骨の成長に伴う「筋肉の柔軟性の低下がある選手」や、いわゆる「カラダの硬い選手」というのは今後オスグッドになる可能性のある選手ともいえる。

現在オスグッドの痛みのある選手は、
それが初期のもので疼痛が軽度のものであれば、早期に復帰することが可能だが、オスグッドになりやすい身体的な特徴を解決しなければ再発の危険性があること。
現状スポーツ活動に影響がでないほどの痛みであっても、痛みが長期化し、進行した症例では長期におけるスポーツ活動の休止を余儀なくされてしまう可能性がある
ということを知り、ストレッチをしっかりと行う習慣をつけて欲しいと思う。

先にも述べたが、「成長期」というのは骨などの身体的なものに限らず、「手先の器用さ・運動能力に関わる神経系の発達も著しい時期」であり、
この時期に活動を休止しなければならないというのは、選手としての成長に大きな損失になると考えれる。

今回の記事が

現在

◎お子様、またはチームメイトがオスグッドによる膝の痛みで困っている
◎オスグッドによる痛みで運動を休止している
◎現在は治り復帰しているが、予防のためにできることを知りたい

という方にとって有益な情報となれば幸いです

 

BE FITでは
今回の内容を踏まえた身体的特徴のチェック・オスグッド予防のためのコンディショニングを指導しております。
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